Critical Path

限界工程

大切な人がいるこの場所で

“夢を見ていたよ 君と同じ夢
君と過ごした何気ない日々の中で・・・”



振り返れば、僕はいつも、ただひたすら自分の推しのことだけを考えていた。
推しが笑顔でいることが何よりも大事だったし、好き勝手名前を叫んだり、
その娘自身について話している時間こそ自分にとって楽しさがあった。
アイドルグループにありがちな物語性なんてほとんど興味が無かった。
「箱推し」なんて絶対にありえないと思ってた。

ここも始めはそうだった。
まりちゅうのカムバック、結成発表、関根ささらの加入…
放プリの現場に行っていたから動向は知っていたけど、
僕がこのグループに通おうと思ったきっかけは
気になっていたグラビアアイドル・小島麻友美が加入したことだった。
彼女と初めて話した時から僕の世界は彼女のものになった。
ここまではいつもと一緒だった。


それが、ライブに行き、接触を重ね、彼女たちがキャストとして働く
ココナッツステージに通い始めたことは特に大きかった。
メンバーと会話して、それぞれの考え方を知って、それぞれのヲタと出会って…。
推しと自分以外の世界を決して広げようとしなかった僕には刺激的な経験だった。

グダグダでガチャガチャでハラハラさえしてしまう。だけど、こんなに楽しくて。
その姿に在りし日の放課後プリンセスを重ねていたのは、きっと僕だけではないと思う。
彼女たちに会いに行く為に毎週のように文字通り骨身を削って乗る夜行バスも一つも苦にならなかった。
それが例えほんのわずかな時間のバックダンサーでも。ただ、楽しみだった。
気づけば僕は、小島まゆみ個人と同じように、彼女のいる“放プリユース”というグループが大好きになっていた。



「放プリユース でTIFに出たい。」

あの夏空の下、最高のメンバーと各々のヲタが一つになって
「放プリユースがNo.1!」と高らかに叫ぶ。
このグループなら必ずそれが出来ると信じていた。

いつからかそれが僕の夢になっていた。夢に見ていた。




“夢から覚めて 今も夢見ている
君と過ごした何気ない日々の続き・・・”

twitter.com

関根 の誰よりも熱くて真っすぐでヲタ想いなところが好きだった。
自分に一番似ているところがあると思っていたし、きっとこの娘がいれば最高のグループが作れると思ってた。

まりちゅう の売れても変わらず人懐こいところが好きだった。
初めてココナッツに行った時、どうしていいか困っていた僕に声をかけてきっかけを作ってくれたのも彼女だった。

りぃちゃん の見た目は上品なのに変なことや面白いことを言うところが好きだった。
ゆっくり彼女と話して魅力に気づかせてくれた場所もやっぱりココナッツだった。

みーしゃん の美形すぎるのにおっさんみたいなノリが大好きだった。
ほとんど話したことないのに慣れなれしく呼ばれて、面白ぇ奴wと思ってた。

仁菜ちゃん は同じ福井住みでこんな美少女とこれからユースを盛り上げていけるなんて…本当に楽しみだった。


青春がいつか終わるように、アイドルもいつかは離れ離れになる。
永遠なんてありえないし、心地よい場所はいつも突然なくなる。

僕の中の自分勝手な正義は、
まゆみんの笑顔を奪おうとする“何か”が許せなかったし、やるせなかった。

彼女は力強く「私だけを見ていて!」と言った。
昔の僕だったら、迷わず「もちろん!」と答えただろう。
でも僕は弱くなってしまっていた。
「4人がいないユースを受け入れられない。」
初めて強い口調で当たってしまった。
激しい自己嫌悪と同時に全てが終わった…と感じた。

それでも、2部の最後の挨拶できっと僕の何倍も辛いはずなのに
強い眼差しで涙を見せず決意を語る彼女を見て
奪われたのではなく、望んだことだと気づいた時、
僕は自分のどうしようも無い小ささが恥ずかしくて
本当に情けない気持ちでいっぱいになった。

いつもギリギリで気づく。自分にとって本当に大切なものは何なのか。



“何処へゆくのか 何処へ帰るのか
君が居る場所 俺はそこに残る”

これからも自分のやるべきことは変わらない。
いつもみたいにピンク色のサイリウムを振り回して、声の限り\まゆみん/と叫ぶだけ。

残された日々を大切に。ここに最高のグループが在った証を残すために。
立ち止まると涙が溢れてくる。メソメソしていても時間は流れていく。
だから僕たちは前に進み続けなくちゃならない。





青春にリハーサルなどないのだから。